こんにちは。
ラッセルベッドフォードの澤柳です。
今回は、グループ会社間のローンに関する税務についてお話をさせて頂きます。
少し難しい内容にはなりますが、是非最後までお読み頂ければ幸いです。
国際ビジネスを行う企業は、複数の国で税金を課される可能性があります。
たとえば日本の親会社がマレーシアの子会社から受け取る利息に対して、日本とマレーシアの両方が課税を主張すれば、同じ所得に二重に税金がかかってしまいます。
この問題を解消するために、国と国との間で締結されるのが「租税条約」です。
ただし、各国が個別に条約を交渉すると、内容がバラバラになり、抜け穴が生まれたり、逆に過剰な課税が生じたりします。
そこでOECD(経済協力開発機構)が「モデル租税条約」という標準的なひな型を作成し、各国はこれをベースとして二国間の条約を交渉・締結しています。
現在、このモデルをもとに世界中で3,000以上の租税条約が結ばれており、国際的な税のルールを支える土台となっています。
モデル租税条約には「コメンタリー」と呼ばれる詳細な解説文書が付随しており、各条項の解釈指針を示しています。
各国の税務当局はこのコメンタリーを実務上の拠り所としているため、OECDがコメンタリーを改訂すると、世界中の税務調査や条約解釈に影響が波及します。
2025年11月の改訂は、2017年以降では最も大規模な包括的改訂であり、グループ内金融取引に関する解釈もそこで大きく整理されました。
多国籍企業グループでは、親会社が海外子会社に対して事業資金を融通するケースが一般的です。
この際、資金の提供が「貸付金(ローン)」なのか「資本金(出資)」なのかによって、税務上の取扱いが大きく異なります。
ローンであれば子会社が支払う利息は損金算入(費用として計上)できますが、出資であれば配当として扱われ、損金算入は認められません。
この区別をめぐって、各国の税務当局が異なる基準で判断を行ってきた結果、国際的な混乱と二重課税のリスクが長年指摘されていました。
OECDはすでに2020年に移転価格ガイドラインの第10章(Chapter X)にてグループ内金融取引に関するガイダンスを公表していましたが、各国がその解釈を条約レベルで統一できていなかったのが実情です。
今回の改訂は、その状況を解消するため、ソフトローにとどまっていた概念を条約上の正式な解釈基準として格上げするものです。
今回の改訂で最も重要なのは、第9条(関連企業条項)のコメンタリーが全面的に書き換えられた点です。
これまでも「ローンか出資かは実質で判断する」という考え方は存在しましたが、各国の税務当局がそれをどう適用するかはバラバラでした。
今回の改訂により、「まずローンとしての性質を判定し、そのうえでアームズ・レングス(独立企業間)の観点から金利の適正性を評価する」という2段階の判断手順が、条約レベルで明確に位置づけられました。
言い換えると、「契約書にローンと書いてある」だけでは不十分です。
経済的な実質を見て、「これは本当にローンと言えるのか」を先に問うことが、国際的な標準となったのです。
マレーシアの内国歳入庁(IRB)が、グループ内ローンを実質的な出資と認識する可能性が高まるのは、具体的にどのような場合でしょうか。
返済能力が客観的に不十分な場合が典型例のひとつです。
子会社が赤字続きであったり自己資本が薄い状況での多額の借入は、独立した銀行がこの条件でローンを提供するはずがないと判断され、事実上の出資と見なされるリスクがあります。
また、返済スケジュールが曖昧で実際の返済が行われていない取引や、固定利率ではなく子会社の利益に連動して利息が変動する取り決めも、配当の性格を帯びていると見なされやすくなります。
さらに、グループ全体のキャッシュマネジメントの一環にすぎず個別の経済的合理性を欠く資金循環も同様のリスクをはらんでいます。
IRBがグループ内ローンを出資と再性質決定した場合、複数の税務リスクが連鎖的に生じます。
最も直接的な影響は利息の損金算入の全額否認です。
子会社が支払ってきた利息は費用として認められなくなり、過去に遡って課税所得が増加します。
追徴税額に加え、加算税や延滞税が重なる可能性もあります。
また、利息が配当と再性質決定されると適用される税金も変わる可能性があるでしょう。
現時点では、マレーシアのIRBはグループ内ローンがアームズ・レングスの金利条件を満たしている場合、多くのケースでその損金算入を認めています。
しかし今回のOECD改訂を受け、この状況が変わっていく可能性は十分にあります。
マレーシアでも早ければ2026年に、グループ内金融取引に特化した移転価格ガイドラインを別途公表する予定であり、IRBがローンの性質判定により積極的に踏み込む場面が増えることが予想されます。
「アームズ・レングスの金利であれば問題ない」という従来の感覚は、今後通用しなくなる可能性があります。
なぜこれはローンであり出資ではないのか、を経済的実質の観点から説明できる文書の整備が今まで以上に重要です。
借り手である子会社の返済能力分析、独立した第三者が同条件で融資するという合理的根拠の説明、契約条件の第三者間との整合性確認など、これまで後回しにされがちだった文書化に、今から着手しておくことを強くお勧めします。
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今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今週も一緒に頑張っていきましょう。
