なぜ在庫に金利がかかるのか

Posted on 19/06/2025

こんにちは。 

ラッセルベッドフォードの澤柳です。 

先週とある会社の社長さんから資金繰りに関するご相談を頂きました。 

その会社は外部環境の影響で売上が低迷し、在庫が増えた結果、資金繰りが悪化しています。 

しかし、幸いにも赤字ではありません。 

資金繰り対策として追加の借入を検討していて、追加借入をしたときに財務上問題ないかどうかについて私の意見を求められました。 

この会社は運転資金を借入金でまかなっていて、単純に在庫が増えていったことで追加の運転資金の投入が必要になっていました。 

*運転資金が何かを忘れてしまった方は前回の私のメールを参照してください。 

そこで私から最初に社長にお伝えしたのは「在庫にも金利がかかる」というお話です。 

在庫に金利がかかると言うと多くの人はポカンとしてしまいます。 

しかし、この意味がわかっていないと借入が良いのか悪いのか判断ができません。 

「BSは経営者の責任」であり、BSを理解することこそ財務体質の改善に向けた最初の一歩となります。在庫を必要とする会社の経営者の皆さまは必ずこのメールの内容を理解するまで繰り返し読み直してください。 

本題に入る前にまずBSの基礎知識ですがBSの右側には負債と純資産(=資本)が記載されBSの左側には資産が記載されています。 

資本とは「どこから事業資金を調達したのか」 

資産とは「その資金をどのように使ったのか」 

をそれぞれ意味しています。 

だから常に左右バランスしているわけです。 

そしてさらに、このBSを読むのにもう一つ重要なポイントがあります。 

それは「目に見えるか、見えないか」です。 

資産というのは実際に資金を使って得たものなので基本的に目に見え容易に管理できます。 

一方資本とは、どこから資金を調達したかというお金の出所を意味しているだけであって 

目に見えない情報の集まりです。例えば、負債である借入金も情報でしかなく目に見え実際に会社が管理しているのは借入金を経由して得た現金(=資産)です。 

それでは次に、今回の社長の会社のBSをみて在庫に金利がかかる理屈を解説します。 

まずはBSを縦に見ていきます。 

資産には固定資産と流動資産があります。 

固定資産とは長期間回収されないお金であり、流動資産とは短期間の営業活動で使うお金です。 

さらに流動資産の中でも時間軸があり、現金で在庫を買い、在庫を売って売掛金にし、売掛金を回収して現金を増やすといったようにお金がグルグルと循環しています。 

そうすると、BSの左側では 

現金化されるスピードが早い資産が上 

現金化されるスピードが遅い資産が下 

という序列に基づいて記載されているのが 

わかるかと思います。 

また、BSの右側では 

お金を返す期日が早い資金が上 

お金を返す期日の遅い資金が下 

という序列に基づいて記載されています。 

それでは次にBSを横で見ていきます。 

それぞれの「資産」はどのような出所の「資金」でまかなわれているのでしょうか? 

その資金の出所は、それぞれの資産のすぐ右隣に対照表示されている資本の欄を見てください。 

例えばこの会社は固定資産を4持っていますがその右隣は資本金です。 

資本金も同額の4となっていますので固定資産は全て資本金でまかなわれたことがわかるかと思います。 

それでは次に在庫はどうでしょうか? 

在庫の右隣は、借入金です。つまり、在庫は借入金でまかなわれています。 

この会社の社長が最初に言っていたように在庫が増えてしまい追加借入が必要になったことがここからも推察できます。 

借入金は、最初に現金として会社に入ってきて最後も現金で返さなければいけない負債です。 

しかし、その借入金を返すまでの間はその現金が在庫に変わり、売掛金に変わり、回収して現金を増やし、さらに在庫へ投入し、というようにお金が循環していますので借入金は現金という形を維持してはいません。 

よって、借入金にかかる金利に関しても同様に借入金で調達した現金、さらにはその現金が変化した別の資産に対して金利が発生しているということが理解できるかと思います。 

この会社の事例でいえば、運転資金を借入金でまかなっているので 

運転資金3(在庫2+売掛金3-買掛金2) 

そして残りは現金へ1と借入金を割り振れます。 

つまり、この会社が在庫2、売掛金1、現金1を保有していることに対して金利が発生していると言うことができるでしょう。 

これが在庫に金利がかかるという理由です。 

一般的に金利は借入金(負債)があるから発生していると思われていますが、実際はその金利が生まれる根本的な原因は借入金で調達した「資産」を会社が持っているからです。 

借入金は負債だからBSの右側だけ見てればよいということは決してありません。 

どんな負債も必ず資産とセットで考えてください。 

そうすると、金利などの「資本の調達コスト」がその資産を保持するコストとして見えてきます。また、資金繰りに困った時は追加借入よりも先に余分な資産がないかどうかを確認してください。 

資産をもっているから、負債があるわけです。 

働かない資産のために、金利というコストを払って追加の借入をする必要は全くありません。 

働かざる資産、持つべからずです。 

財務では「資産の回転率を上げる」といいますが、在庫を早く現金化したり、他にも余分な資産を持たないようなお金を寝かせない努力が資金繰りを改善し、会社の財務体質を強くします。 

最後になりますが、今回の例に取り上げた会社の事例に関し、皆さんも自分の会社に置き換えて一度考えてみてください。 

経営では、必ずしも答えは1つではありません。それは財務でも同じです。 

私からこの会社の社長さんへのアドバイスも追加の借入が良いか悪いという2択ではなく、こういった場合であれば良いのではないか、こうしたら追加借入が不要なのではないか、というようにお伝えをしています。 

前回のメールで解説した運転資金と合わせて考えてみると面白い発見もあるかと思います。 

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今回は以上となります。 

今週も一緒に頑張っていきましょう! 

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