キャッシュフロー計算書を読む(続)

Posted on 31/10/2025

こんにちは。 

ラッセルベッドフォードの澤柳です。 

前回のメールでキャッシュフロー計算書の解説を簡単に行いましたが、今回も引き続きキャッシュフローについて深堀りをしていきたいと思います。 

PL上の利益とキャッシュフローは必ずしも一致しないため、その認識のズレが経営にどの様な影響を与えるのかを確認する必要があります。 

利益を上げたのに手元に現金が残っていない、逆に赤字なのに手元の現金が増えている、なんてことは日常茶飯事に起きています。 

そのようなPLとBSの橋渡し的な役割をするのがキャッシュフロー計算書になります。 

月次キャッシュフロー計算書には、 

・当月の純利益 

・先月末からの営業活動に関するBS科目の増減=「営業活動によるキャッシュフロー」 

・先月末からの投資活動に関するBS科目の増減=「投資活動によるキャッシュフロー」 

・先月末からの財務活動に関するBS科目の増減=「財務活動によるキャッシュフロー」 

・その結果生じた当月の現金増減額 

が記載されています。 

キャッシュフロー計算書を読むという事は、その各BS科目の増減が意味するものを理解し、分析するという事です。しかし、木を見て森を見ずにならないように、経営者が見るべき情報が何なのかをまず理解することが重要です。 

経営者が見るべき情報と言っても実は沢山ありますが、その中でも特に私が経営者に毎月確認して頂きたいと思う情報は、「運転資金に関わるキャッシュフロー」です。運転資金が何かについては、以前のメールで解説していますので、もし再送が必要な方がいらっしゃいましたら個別にご連絡ください。 

ここでは、運転資金はBS上の科目を使って「売掛金+在庫 ー 買掛金」の数式で表す、ということだけ抑えておきましょう。 

そして、キャッシュフロー計算書の中の「営業活動によるキャッシュフロー」の項目にこの売掛金、在庫、買掛金の残高の増減が記載されていて、そこから運転資金に関わるキャッシュフローを算出できます。 

それでは具体的な数字を使ってどの様な情報をチェックすれば良いかを解説していきます。 

例えば、今月のキャッシュフロー計算書上で以下のように数字が記載されていたとします。 

  売掛金変動額: -100万円 

  在庫変動額 :-100万円 

  買掛金変動額:+50万円 

まず初めに、前回のメール内容の復習ですが、キャッシュフロー計算書上のプラスやマイナスの表記は資金が増える要因か減る要因かによって決まります。 

つまり、売掛金変動額マイナス100万円が意味するのは、「先月末と今月末を比較して今月末の売掛金残高が100万円増加した」ということになります。 

もしこの理解がまだしっくりこないという方は前回のメールを再度お読みいただくか、または売掛金が増えた分お金の回収が滞っているから手元に現金がない、という様に、とりあえずは感覚的に覚えておいて頂いても構いません。 

在庫に関しては、「先月末と今月末を比較して今月末の在庫残高が100万円増加した」買掛金に関しては、「先月末と今月末を比較して今月末の買掛金残高が50万円増加した」ということが読み取れます。 

運転資金は「売掛金+在庫 ー 買掛金」の数式で表すので、今月の運転資金は150万円増加したということがまず理解できます。 

運転資金が増える(必要になる)ということは、その分だけ資金が売掛金と在庫になってしまい、手元の現金が減っている状態であることを意味しています。 

だからキャッシュフロー計算書上でも以下の通り、マイナスになります。 

売掛金増減 -100万円 
在庫増減 -100万円 
買掛金増減 +50万円 
運転資金増減 -150万円 

運転資金増減がマイナス150万円ということはまず当月純利益がプラス150万円あって初めて手元の現金の増減が0となります。 

もし当月純利益がプラス80万円しかなかったら手元の現金は70万円減ることになりますので、利益を出していても現金が減るという現象が発生するでしょう。 

もしこのように、利益の出るスピードより現金が減るスピードが早い状態が続くのであれば、追加借入や買掛金の支払いタームの再検討など、資金繰りを健全にするための方法を考える必要があります。 

さらにここで注目すべきは、売掛金と買掛金の増減額の違いです。 

売掛金が100万円増えたのに対し、買掛金は50万円しか増えていません。 

この会社の事業構造として、売掛金の増加額の方が買掛金の増加額よりも大きいことから、売上を上げれば上げるほど売掛金と買掛金の差額も大きくなっていくことが推測されます。 

翌月にさらに売上が上がる見込みであれば、今月以上に運転資金が必要となる可能性があり、資金繰りにどの様な影響があるかを確認する必要があります。 

また、個々の科目に対する分析も必要です。 

そもそも売掛金が100万円増加したことは正常なことだったのか、それとも一時的な増加であったのか、といった様に増減の理由をそれぞれ3つの科目で確認してください。 

一時的な増減であれば来月は解消されているはずですので、資金繰り上は大きな問題ではありません。 

今回の例では、在庫が100万円の増加となっていますが、売掛金の増加額に比べて大きな金額であることが確認できます。 

売掛金とは売上の未回収分である一方で、在庫とは利益を乗せていない原価ベースの金額です。 

それなのに売掛金と在庫の増加額が一緒というのは少し合理的ではありません。例えば工場であれば、来月の生産量を上げるために当月の仕入が増え在庫が増えた、という理由であれば合理的だと言えるでしょう。 

しかしここで間違ってはいけないのは、木を見て森を見ずにならないことです。 

あくまでも運転資金に関するキャッシュフローという切り口から分析していき、そこに売掛金と買掛金の増加額の違いであったり、各科目の増減理由であったりと、より深い資金繰り分析へと繋がっていきました。 

いきなり「在庫がなぜ100万円増えたのか」という分析を始めても、それが資金繰りと結びつくことはありません。 

 営業活動によるキャッシュフローの中でも、運転資金に関係するキャッシュフローの理解、そしてその分析は最も重要です。それは、運転資金がその会社の事業構造を如実に表していて、経営者の手腕もそこに反映されるからです。 

キャッシュフロー計算書上では、営業活動によるキャッシュフローとして様々な科目とごちゃ混ぜになり表記されていますが、必ず運転資金の部分だけを取り出して分析してみてください。 

そうすると、今月稼いだ利益がどこへ消えたかを理解する足がかりとなり、会社経営にも必ず役立つはずです。 

むしろ運転資金のキャッシュフローを見ることこそ、キャッシュフロー計算書の存在理由だ。と言っても私は過言でないと思います。 

また来週もキャッシュフロー計算書に関する記事をお送りしますので、少し大変かと思いますが前回と今回のメールを理解するまでお読み頂ければと思います。 

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今回は以上となります。 

今週も一緒に頑張っていきましょう! 

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