会計監査との付き合い方

Posted on 25/09/2025

こんにちは。 

ラッセルベッドフォードの澤柳です。 

先日、とある会社様から会計監査サービスのお問い合わせを頂きました。 

監査法人を変えたいというお話で、その理由を尋ねると、以前の監査法人に監査を頼んでも会計処理のミスを全てチェックしてもらえないということでした。 

そのお客様は、「小さい金額だが複数の誤った会計処理がそのまま見過ごされて監査が終了していた」「会計監査を頼んでいる意味がない」という少し怒りもこもったお話をしていました。 

そこでまず私が説明したのは、当社で会計監査を行っても同様に100%の保証をすることはできない、ということでした。 

この話を進める前に、今回の記事はそのお客様が間違っているか否かを議論するものではなく、会計監査とはどんなサービスで会社としてどう付き合うべきかを皆さんに理解して頂くためにお送りしていることをご留意ください。 

実際に、会計監査といっても日本で受けている会社の数の方が少ないくらいですし、むしろ経理でもよくわかっていない場合があります。 

しかし、マレーシアで事業をしている以上は、会計監査は毎年行わないといけないものであり、経営者として会計監査が何か理解をして受けるのと理解しないままとりあえず受けるのとでは全く結果が変わってきます。 

せっかくお金を払って会計監査を受けている訳ですので、会計監査とは何かを理解し、うまく利用・活用できるようにしましょう。 

それでは今回のお客様の会計監査で、なぜ会計処理の間違いが見過ごされたのでしょうか? 

理由は主に、以下の3つが考えられます。 

1.会計監査の目的 

2.会計監査の手法 

3.会計監査の限界 

まず第1の会計監査の目的についてお話します。 

会計監査の主な目的は、会社が作成した財務諸表が適正に表示されているかどうかに対して、会計監査人が意見を表明することにあります。 

監査報告書をお持ちの場合は一度見て頂きたいと思いますが、必ずそこには監査人が意見を表明する「Auditor’s Report」があります。 

そして、「Opinion」という項目においてその会社の財務諸表がどのように適正に表示されていたかを記述します。 

一番良い意見は「無限定適正意見」であり、一般的にその意見は以下のように記載されます。 

“In our opinion, the financial statements give a true and fair view of the financial position of the company as at dd/mm/yyyy, and of itsfinancial performance and its cash flows for  

the year then ended in accordance with … “ 

この意見をお読み頂くとわかるかと思いますが、会計監査では財務諸表の「表示」が適正かに対して意見を表明しており、会計「処理」に問題があるか否かの意見ではありません。 

つまり、例え会計処理に間違いがあった場合もその表示が適正と判断されれば会計監査上は問題なく監査が通ってしまいます。 

会計監査が生まれたきっかけは、内部ではなく外部のステークホルダー、例えば投資家がその会社の財務諸表が信頼に足るかを判断するためでした。 

なので、細かな会計処理の話よりも財務諸表の表示が適正で、その利用者の意思決定に影響を与えないということの方が重要視されています。(良いか悪いかは別にして) 

次に、2番目の会計監査の手法に関してです。 

会計監査の手法というと少し難しい内容を想像するかもしれませんが、簡単にいってしまえば「土ふるい」です。 

会計監査は会社の全ての活動をチェックする事はできませんので、100%の保証を与えるということもできません。 

そのため、会計監査では「試査」というサンプリングの手法を使い、重要な虚偽表示がない事を確認することが主な仕事になります。 

このサンプリングの過程において、3つの網を使って「土ふるい」をします。 

それは、 

重要性の基準値(Overall Materiality) 

手続き実施上の重要性(Performance Materiality) 

明らかに僅少な額(Clearly Trivial Threshold) 

の3つです。 

言葉は少し難しいですが、上から下へ順番に目が細かくなっていく3つの網を想像して下さい。 

これらの3つの異なる網の目にひっかかる虚偽表示は会計監査において重要性が高く、会計上「問題だ」と認識されます。 

一方、この3つの網目を通り過ぎてしまう問題については、監査では取り上げることはありません。 

この網目の大きさは会社の規模やリスクに応じ異なりますので、ある会社では3つの網目に引っかかって発見されても別の会社では網目に引っかからないで監査が終了してしまう事もあります。 

それが良いか悪いかは別にして、これが監査で行われている手続きになります。 

最後に、3番目の会計監査の限界についてです。 

財務諸表には経営者による見積りや判断が多く含まれています。 

例えば、減価償却費はそれぞれの固定資産の耐用年数や残存簿価などを会社が見積り、計算されています。 

その他にも貸倒引当金や賞与などの引当金など会計上計上すべきとされていても正確な測定ができないため、見積りが必要になります。 

これらは会計監査においても同様に正確か否かを判断することはできず、あくまでも認識方法やその開示が適正であるかをチェックします。 

そのような制約の中で適切な監査手続きを実施することにより、会社の財務諸表「全体として」重要な虚偽の表示はないという、絶対ではないが相当に高い程度の心証を得ることが会計監査の目的になります。 

なので、そのような見積については1RM単位の正確さを求めることはせず、あくまでも上述した「網の目」を通過できる程度問題なければ良いというのが会計監査の考え方になります。 

以上が、会計監査で会計処理の間違いが見過ごされる3つの主な原因です。 

しかし、それが良いか悪いかという話はまた別にあります。会社としては、間違いがないことに越したことはありません。 

例えば、もしこのように会計監査で見過ごされる間違いがあると理解できれば、会社独自にさらに細かい網の目で「土ふるい」を実施する事も検討できます。 

会計レビューや税務ヘルスチェックなど、会計事務所のサービスにもさらに細かいチェックを行えるようなサービスがあります。 

また、監査前に監査法人へも「この取引に関するチェックをより重点的にお願いできないか」と相談することもできます。 

会計監査は100%の保証ではありませんが、財務諸表の精度が100%に近づくような努力はできるはずです。 

皆さんの会社でも毎年会計監査を受ける際には上記の内容を考慮しつつ、経営の役に立つよう、うまく監査法人や会計事務所を活用して頂ければと思います。 

さて、既にお申し込み頂いている方もいるかと思いますが、この度、パーソナルトレーニングジムのFITOKIO様と10月22日(水)14時30分~16時30分に対面式合同セミナーを開催することが確定しました。 

今回は以上となります。 

今週も一緒に頑張っていきましょう! 

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