損益分岐点の盲点

Posted on 04/09/2025

こんにちは。 

ラッセルベッドフォードの澤柳です。 

先週お送りした「PLの嘘」に関するメールは大変好評で、コメントをたくさん頂きました。いつもありがとうございます。しかしその一方で、少し間違った解釈をされた方も何名かいらっしゃいました。  

その方達に共通していたのは、損益分岐点への絶対的な信頼です。 

前回のニュースレターでは、損益分岐点の重要性を再度確認するべく、変動費・固定費に分けることで会社が本当に儲かっているかどうかをしっかり見分けましょうというお話をしました。その一方で、損益分岐点は優秀なツールですがその使い方を間違うと誤った意思決定をしてしまうリスクもあります。 

今回のニュースレターでは、そのような損益分岐点に関する注意事項を書きましたので、前回のメールの補足としてセットでお読みください。 

また、今回は製造業、非製造業関わらず、共通した内容になっています。数字を使ってわかりやすく解説していますのでぜひ最後までお読み頂ければ嬉しいです。 

【A社の損益分岐点に関する考察】 

A社はX、Y2つの製品を取り扱っています。 

損益分岐点を分析したところ、Y製品は1台あたりRM2K の赤字を出す不採算製品でした。 

Y製品事業はマイナスRM100Kの赤字でも当期利益はRM100Kの黒字となっています。 

それはX製品事業がRM200Kの利益を稼いでくれているからだという事が理解できます。 

この会社の社長は、Y製品が不採算製品のためY製品の取り扱いを中止しようと考えています。 

皆さんならどうするでしょうか? 

前回は単純に1製品での考察でしたが、今回は2製品と少し複雑になっています。  

 しかし、通常は2種類以上の製品を取り扱う事の方が普通ですので、今回のような事例の方が皆さんの会社の状況にも近いと思います。 

まず初めに、X製品とY製品を変動費と固定費に分けて利益を稼いでるかを考えた時、確かにY製品を50台売るだけでは赤字になります。 前回のニュースレターの通り、固定費を回収できて初めて会社は儲けることができますが、Y製品事業では固定費を回収できていません。 

 つまり、Y製品は最低でも70台売れていないと固定費を回収できないので、それ以上の販売が見込めないなら今後も赤字となるでしょう。 

それではY製品が70台売れないのならY製品は全く会社に貢献しない製品かというと、 

実はそうでもありません。 Y製品は割り当てられた固定費RM350Kを回収することはできていませんが、それでも粗利を1台あたりRM5K稼いでいます。 

少なくとも今期に関して言えば、粗利がRM250Kでていることから、会社全体の固定費の 

RM250K分を回収するために働いてくれたと言うことができます。 

つまり、Y製品以上の代替案がない限り、Y製品の取り扱いを中止するという意思決定を 

するだけでは、会社はただただX製品に全ての固定費1,150K RMを負担させ、損益をさらに悪化させることになります。 

損益分岐点を絶対的指標にしてしまうと木を見て森を見ず、というように個別最適の経営になってしまいます。 

経営者は常に全体最適を目指さなくてはいけません。例え不採算製品があったとしても、会社全体へ貢献をしているか否かを経営者は常に把握しておく必要があります。 

そして、これは値引きでも同じことが言えます。 

「値引きして受注すべきかどうかわからない」というお声を度々頂くことがありますが、 

値引きに関しても損益分岐点を使い判断します。  

例えば上記のY製品の数値がX製品の値引販売の数値であったと仮定したらどうでしょうか?X製品を通常価格RM20K で100台を販売し、さらに値引価格RM13Kで50台を販売した時、当期の損益は以下のようになります。 

変動費単価は同じ製品のため変わりません。 

(1台あたりRM10K) 

固定費は当期累計で1,150K RMでしたので、当期販売台数150台で割った1台あたりの固定費負担額7.67K RMを使用して計算します。 

(RM7.67K x 100台 = RM767K) 

この時社長として、この値引をしてでも追加で受注・販売すべきかどうかの選択を迫られます。 

損益分岐点という視点では、X製品をRM13Kへ値引して50台しか販売できないのなら、 

1台あたりRM4.66Kの赤字ですので、あまり好ましくない状況とは言えません。 

結果、通常価格で売って得た利益RM 233Kと値引をして売ったことによる損失RM233K で当期利益は0になるでしょう。しかし、値引をして追加で50台売れたことで粗利をRM150K稼げていますので、その分は会社の固定費回収という貢献をしています。 

もし仮に、値引をしない場合はこの追加の50台も販売できませんので、その分だけ固定費の回収ができません。 

その時の会社全体の損益は、 

233−383(値引販売負担分の固定費)=−150 

と赤字になってしまいます。 

「損益分岐点に達していない」ということは確かにあまり良い状態ではありませんが、だからと言って「会社にとって不要である」という断言もできません。 

経営には常に全体最適が必要です。  

変動費と固定費に分けることで見えてくるもの、そして逆に見えづらくなるものがありますので、皆さんの会社でも実際に使用する際には十分気をつけて頂ければと思います。 

さて、最近のSST及び印紙税の動向についてのオンラインセミナーを9月24日(水)14時~15時に開催することが確定しました。 

今回は以上となります。 

今週も一緒に頑張っていきましょう! 

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