リモートワークと恒久的施設(PE)に関する新たな考え方とマレーシアへの影響

Posted on 24/04/2026

 こんにちは。 

ラッセルベッドフォードの澤柳です。 

コロナ禍をきっかけに定着したリモートワーク。マレーシアに拠点を置く企業でも、日本の親会社の社員が現地に長期滞在しながら業務を行うケース、あるいはその逆に、マレーシアの社員が日本や第三国から業務を行うケースが珍しくなくなっています。こうした働き方の変化が、思わぬ税務リスクを引き起こす可能性があります。 

2025年11月、OECDはモデル租税条約の大幅な改訂を公表しました。この改訂では、前回ご紹介したグループ内金融取引に関する整理に加えて、リモートワークと恒久的施設(PE)に関する重要な考え方が新たに打ち出されています。今回はこの点を中心にご説明します。 

PEとは「Permanent Establishment(恒久的施設)」の略で、企業が海外で事業を行っている拠点として税務当局が認定する場合、その国での課税権が発生する仕組みです。支店や工場のような物理的な施設がある場合に成立するのはイメージしやすいと思いますが、問題はより曖昧なケースです。 

たとえば、日本の親会社の社員がマレーシアに長期滞在して業務を行っている場合、その社員の「活動の場」がマレーシアにおける親会社のPEと認定されると、親会社がマレーシアで法人税を申告・納付しなければならない義務が生じます。 

従来の租税条約の解釈では、PEが成立するためには「固定された事業の場所」が必要とされていました。その判断にあたって重要視されていた要素は主に2点、「継続性」(一時的な使用ではないこと)と「処分可能性」(企業がその場所を自由に使える状態にあること)です。 

しかし自宅勤務に関するコメンタリーは長らく数パラグラフのガイダンスしか存在せず、判断の中心は「企業が従業員の自宅をその事業のために実質的に使用できる状態にあるか」という主観的な基準に置かれていました。 

たとえば「企業が代替のオフィスを提供していないうえ、従業員に自宅勤務を要求している」ような場合にPEが成立しうるとされていた一方、「従業員が個人的な理由で自宅勤務を選択している」場合はPEが成立しないとされていました。 

この曖昧さが、コロナ禍以降のリモートワーク普及を受けて実務上の大きな問題となっていました。各国の税務当局が異なる解釈を適用し、企業が採用や人材確保の判断においても不確実性を抱える状況が続いていたのです。 

今回の改訂では、自宅オフィスがPEを構成するかどうかの判断基準が大幅に明確化されました。核心にあるのは「2段階の判断テスト」です。 

第1段階として、従業員がその国で業務を行っている時間が全業務時間の50%を超えるかどうかを確認します。この閾値を超えない限り、原則としてPEは成立しないと整理されました。 

第2段階として、50%を超える場合であっても、その従業員がその国にいることが「企業にとっての商業的な理由」によるものかどうかを判断します。単なるコスト削減や従業員個人の利便性・生活上の選択による場合は、PEとはみなされません。 

また改訂では、PEを構成しない具体例として「散発的・偶発的な業務」や「従業員が任意で選択したリモートワーク」が挙げられており、逆にPEを構成するリスクが高い場合として、企業が従業員に特定の国での在宅勤務を要求・期待している状況や、その国の顧客へのリアルタイムサービス提供を目的とした配置が示されました。 

さらに重要なポイントとして、OECDのコメンタリーは「自宅でのリモートワークが通常PEを生じさせることはない」としながらも、「決してない(never)とは言えない」と明記しています。つまり事実関係次第では依然としてPEリスクが生じる余地が残されており、形式的な基準を満たすだけで安心できるわけではありません。 

マレーシアは現時点でOECDの改訂コメンタリーを国内法として自動的に取り込む仕組みを持っていませんが、実務上は日本・マレーシア租税条約の解釈においてOECDのコメンタリーが重要な参照基準となります。 

注目すべき点として、マレーシアは今回のOECD改訂において自宅勤務とPEに関して独自の留保または解釈上の条件を示しており、OECDの標準的な枠組みとは異なる取り扱いがなされる可能性があります。そのため、OECDのコメンタリーに基づく判断のみでマレーシアでのリスクを評価することは適切ではなく、マレーシア独自の動向を継続的に注視していく必要があります。 

特に注意が必要なのは以下のような状況です。 

日本の親会社の社員がマレーシアに長期滞在しながら親会社の業務(営業・意思決定・契約交渉など)を行っているケース、あるいはマレーシア法人の社員が日本や第三国から継続的にマレーシア法人の業務を行っているケースです。後者の場合、第三国においてマレーシア法人のPEが認定されるリスクも生じます。 

マレーシアのIRBが今後、OECDの新たな考え方を意識しながらクロスボーダーの勤務形態に対する調査・解釈を強化していく可能性は十分にあり、早めの実態把握と対策が求められます。 

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今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

今週も一緒に頑張っていきましょう。