マレーシア2027年度予算案 財政運営の方向性と税務への含意

Posted on 23/10/2026

こんにちは。 

ラッセルベッドフォードの澤柳です。 

2026年10月9日、アンワル首相(財務相兼任)が2027年度予算案を国会に提出しました。 

第13次マレーシア計画の2年目にあたり、「MADANI予算」としては5回目です。 

本ニュースレターでは個別の税制改正よりも、財政運営の大枠から読み取れる方向性を整理したお話をしてみたいと思います。 

■歳入見通し:新税なしで税収は5.8%増 

2027年の連邦政府歳入は、2026年の改定見込みRM3,636億から4.7%増のRM3,808億と見込まれています。 

このうち税収はRM2,807億からRM2,971億へと5.8%増加し、歳入全体の78%を占めます。 

非税収の伸びは1.1%(RM837億)にとどまるため、歳入増の主役は税収です。 

注目すべきは、大型の新税が導入されないことです。 

税収のGDP比は2026年・2027年とも12.8%で横ばいと見込まれており、直接税は名目GDPの成長に沿って伸びる前提です。 

その一方で財政赤字はGDP比3.6%から3.3%へ縮小します。 

つまり、税率の引上げではなく、経済成長と徴税の精度向上によって歳入を確保する設計といえます。 

■税収の中身:法人税とSSTが牽引 

直接税はRM1,999億(4.6%増)で、税収の67.3%を占めます。 

最大の構成要素は法人所得税で、直接税の53.3%に当たります。 

2027年の直接税の増加額は約RM89億で、うち法人税がRM49億、個人所得税がRM30億と見込まれています。 

間接税はRM972億(8.3%増)と、直接税より速いペースで伸びる見通しです。 

中心はSSTで、売上税RM309億とサービス税RM424億の合計RM733億(約9.5%増)を見込んでいます。間接税の増加額RM74億のうち、RM63億がSSTによるものです。 

財務省は、民間消費に加え、2026〜2027年のマレーシア観光年や2027年のSEAゲームズ開催による需要を要因に挙げています。 

SSTは歳入全体の19.2%を占めるまでに拡大しており、近年の課税対象の拡大が税収に反映されています。なお、物品税はRM118億で横ばいです。 

■減税の財源をどう確保するか 

今回の予算案には中間層向けの減税が含まれます。 

個人所得税の本人控除はRM9,000→RM12,000に引き上げられ、課税所得RM7万超10万の区分は19%→18%、新設のRM10万超15万の区分は25%→24%に下がります。 

約500万人の納税者に最大RM1,600の可処分所得が増える計算です。 

RAM Ratingsは、こうした控除拡大と税率引下げにより、直接税収が約RM29.6億減少すると試算しています。 

その穴埋めの一つが高所得層への課税です。 

最高税率30%の適用開始が、課税所得RM200万超からRM100万超へ引き下げられます。RM100万〜200万の層は28%→30%となり、所得水準によっては税負担が最大RM2万程度増えるとの分析もあります。 

もう一つが、次項で述べる徴税の強化です。減税を打ち出しながら税収の伸びを維持するには、課税ベースの捕捉率を高めることが不可欠になっています。 

■税務執行の強化:e-Invoiceデータに基づく調査へ 

今回の予算案で歳入確保の鍵とされているのが、税務当局(LHDN)によるe-Invoiceデータの活用です。 

LHDNは累計16億件超のe-Invoiceを分析し、申告所得との不整合を洗い出しています。 

主な成果は次のとおりです。 

  • 申告漏れの可能性が高い案件を50万件超検出 
  • 52,540の納税者が過年度の申告書を提出し、所得RM40.7億(納付税額RM10.09億)を申告 

LHDNは、調査に先立つ「リマインダー(通知)」を送り、自主的な修正申告を促す手法を採っています。 

通知後も対応しない場合は、税務調査や執行措置に進むとしています。 

LHDNは、悪質な脱税や過度な租税回避に注力する方針を示し、AIによる分析機能を拡充するとしています。 

MOFも、2027年の税収見通しにはe-Invoice導入前の調査・執行強化の効果が寄与するとしています。 

国際課税の面でも、移転価格、情報交換制度、暗号資産報告枠組み(CARF)を通じた遵守確認が強化されており、OECDのグローバル・ミニマム課税への対応も進められています。 

専門家からは、e-Invoiceデータを、申告書、給与関係の届出、通関申告、SST記録、源泉税などと突合する形で活用すべきだとの提言も出ており、データ連携による執行は今後さらに進むとみられます。 

■日系企業への示唆 

第1に、データの整合性です。e-Invoice、法人税申告、SST申告、給与関係の届出の間で数字が食い違うと、リスク分析の対象になり得ます。月次・年次での突合体制を整えておくことをお勧めします。 

第2に、給与支払いの方法です。損金算入要件の厳格化を踏まえ、現地口座を経由しない給与や手当の扱いを、詳細規定の公表後に確認する必要があります。 

第3に、グループ内取引です。移転価格文書や、国際的な情報交換を前提とした説明資料の準備が、調査対応の基本になります。 

第4に、駐在員の個人所得税です。所得水準によって減税にも増税にも振れるため、報酬設計の確認が欠かせません。 

■おわりに 

2027年度予算案は、新税を導入せずに税収を伸ばす道筋を示しました。 

その裏付けは、経済成長に加え、SSTの定着とe-Invoiceデータに基づく執行強化です。減税の恩恵を受ける一方、当局の捕捉能力は着実に高まっています。 

今後の財政法案や官報告示で各措置の詳細が明らかになった段階で、改めてお知らせします。 

また、11月19日に弊社主催の2026年を総復習するマレーシア税務アップデートセミナーを開催いたしますので、ご都合がよろしければ是非そちらもご参加よろしくお願い致します。 

ご興味がある方は是非以下フォームよりお申込み下さい。 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

今週も一緒に頑張っていきましょう。